移住したいけれど、実際の生活はどう変わるんだろう?と不安に思う方も多いはず。そこで、さまざまな経験を持つ先輩移住者3名にそれぞれの移住のきっかけと、秋田で暮らしてみて感じる“本音”をざっくばらんにお話していただきました。

移住元・移住先 東京都からへ

プロフィール

それぞれの“秋田暮らし”がはじまるまで

松浦さん(以下松浦)
ひと口に移住といっても、その理由はポジティブなものもネガティブなものもあると思うんです。池内さんの移住のきっかけは何でした?

池内さん(以下池内)
私は2007年に転勤で北海道から秋田市に引っ越しました。今はさらに男鹿市へ移住しているのでそちらにフォーカスしてお話しますね。まず秋田市に来てみて、思ったよりも田舎ではないなと感じました。だからこそ、もっと田舎で暮らしたいと思って男鹿市への移住を決めたんです。

松浦
自給自足みたいな生活?

池内
完全に、ではないですが。自分たちで作れるものはなるべく作りたいと思いました。だから移住のきっかけとしてはポジティブかな。松浦さんはどうでしょう?

松浦
僕は地域おこし協力隊の着任もありますが、もともと実家の事情で秋田に戻ることを決めたので、気持ちとしては前向きではなかったかも。それもひとつの移住のケースとして伝えたいなと思っています。重久さんは?

重久さん(以下重久)
私は端的に言うと東京で出会った夫の実家が秋田ということで、結婚を機に秋田へ移住することになりました。でも、当初は秋田の知識もほとんどなかったので自分が秋田に住むイメージが全く湧かなかったんです。結婚が決まってから自分で情報収集をしたり、実際に秋田に来て移住のイベントに参加したりして、徐々に移住へのイメージを膨らませていきました。

座談する3人

「ここでもやっていける」と確信した移住の決め手

松浦
その後、重久さんが移住を決心した決め手があったんですか?

重久
はい。移住前に実際に秋田に来て地元の方と話す機会を多く持ちました。その中でお話した秋田の女性たちは、みんな活き活きして、輝いて見えたんです。秋田の女性たちのはつらつとした姿を見て、「ここでもやっていける」と確信しました。

池内
地元の方の人の良さに惹かれる気持ち、よくわかります。私は男鹿市に移住して間もなく、車を持っていなかったので職場まで片道30分の道のりを徒歩で通勤していました。でも地元の方にとって見慣れない私が道を歩いていると、みんな珍しがって声をかけてくれるんです。それをきっかけに仲良くなった方もたくさんいますし、時には車で職場まで送ってくださる方もいました。基本的に年配の方が多いので、娘や孫のように面倒をみてくれるんです。私も地元では比較的田舎に住んでいましたが、人の温かさは秋田ならではだと思います。

松浦
それは僕も感じますね。僕は現在2拠点で活動していますが、「外から来た」という理由で移住者を排除するような人はいないかも。地方に移住すると、町内会とか消防団とかお祭りとか、地域とつながる機会が多いんです。無理のない範囲でその機会を活用すれば案外すぐに地域に溶け込むことができると思います。さて、池内さんも何か移住の決め手になるような出来事はありましたか?

池内
私の決め手は「家」ですね。男鹿への移住を決め、物件探しをしていたときに出会った建物に今も住んでいます。

重久
住んでいる家は古民家なんですか?

池内
古民家ではなく、昔診療所だった物件なんですよ。とても古い建物で、部屋や廊下に家具や生活用品が置かれたままでしたが、片づけながら今もそのまま使っています。洋館風のレトロな雰囲気に一目惚れだったんです。入居の条件も良く、移住の不安も吹き飛びました。猫を飼っているので、猫と一緒に住めるというのも有り難かったですね(笑)。

移住後の暮らしの変化、気持ちの変化

池内
松浦さんは2拠点で活動しているんですか?

松浦
滞在している日数は秋田のほうが多いですが、羽後町と仙台市で活動しています。単身赴任のようなものですが、本籍が仙台市にあるので、家族はそちらで暮らしています。秋田に戻ってすぐは地元の友人に「どうして戻ってきたの?」と驚かれました。秋田を出た人が地元に戻るとネガティブに捉えられることが多いんですよ。

重久
私は長く東京で暮らしていましたが、都会ではあまり無い感覚ですね。なんだかもったいないように感じます。

松浦
そうですね。周囲の人の意識や仕事の面で、秋田に帰りたいと思っている人が、もう少し帰って来やすい環境を整えるのも僕らの仕事かな、と。地域おこし協力隊に着任したのも、県外で得た経験や知識を秋田に還元しながら、地方の課題を解決したいと思ってのことでした。お二人の生活は移住後どう変わりました?

重久
東京での暮らしは毎日が忙しく、寝る間も無いような状況でした。秋田に来て、収入面などで東 京での生活に及ばない部分もありますが、自分の体調やメンタルの変化に気づく余裕ができたことが大きな変化です。

池内
私も移住前より気持ちに余裕を持って生活できています。男鹿市の中でもとくに人口の少ない集落に住んでいるので、お金を使う機会がぐっと減りましたね。そのぶん地域の人たちと支え合いながら暮らしています。また、昔ながらの手仕事を体験したり、移住体験ツアーを企画したりする「果工務店」という団体を2017年から主宰しています。県内外を問わず多くの人と関わるようになったという点で、移住後の大きな変化だと思います。

松浦
なるほど。一緒に体験することって、とても大事ですよね。先ほど金銭面のお話が出ましたが、もう少し踏み込んでお聞きしてもいいですか?

重久
私は秋田市に住んでいるので、買い物で困ることはほとんどありません。なので支出については移住前とあまり変わらないですね。今は車を持っていないので、車を持つようになれば維持費もかかり、行動範囲も広がるので自然と増えてくるのかな、というイメージです。収入は、地域おこし協力隊としての報償費と、秋田市でヨガの教室を開いているので、その講師料とがありますが、移住前と比較すると減っているのは確かです。首都圏や、実家がある鹿児島県へのアクセスもあまり良いとは言えず、不便に感じる点もあります。でも収入の面や不便さをカバーできるだけの気持ちの余裕や、人とのつながりを持てていることが、とてもうれしいですね。

移住前・移住後の生活サイクルの変化

移住者として移住者を支える、そして地域を支える、ということ

重久
先程不便さをカバーしてくれる人とのつながりについてお話しましたが、仕事についても同様です。私は秋田市の地域おこし協力隊に着任し「移住コーディネーター」として移住を検討している方や、すでに移住された方のサポートを行っています。

松浦
まさに人とつながるお仕事ですね。

重久
そうなんです。新しく来た移住者さん同士が交流するイベントの企画も行っているのですが、交流会で出会った人たちが回を重ねるごとに仲良くなって、それぞれが次第に地域に根を張っていく姿をみていると、とてもやりがいを感じます。一方で、移住を検討している方の相談を受ける場合には、移住自体を美化しないように気をつけています。もちろん、私が感じた秋田の良いところもたくさん伝えていますが、実際に暮らしてみて気づいたこと、困ったことなど、皆さんの生活に関わるポイントはとくに注意して伝えるようにしています。

松浦
不便なことや困ったことがあるっていうのは、それだけ地域に課題がある、という見方もできると思います。僕は今年地域おこし協力隊の任期を終え、羽後町を拠点に「みらいの学校」というNPO法人を立ち上げました。羽後町の子どもたちが将来の選択肢を広げられるよう、小中学校を中心に多彩な人材を派遣し、講演を行っています。子どもたちの可能性が広がることで、地域の可能性も広がり、将来の課題解決につながると思うんです。今はまだ小さな単位ですが、将来的には県内外でニーズのある自治体・教育機関にサービスを提供することが目標です。そのための人材や、学生インターンシップの受け入れも行っています。活動をお金に変えて地域に還元するためにはまだまだ時間がかかりますが、将来を見据えた長期的な活動が大切だと思って取り組んでいます。

“秋田暮らし”のその先にあるものとは...?

松浦
秋田県の移住相談窓口への相談件数は年々増えているみたいですね。

重久
私もイベントを企画していて、こんなにいるのか、と思ったことがあります。皆さん色々な事情や理由を持って移住されていますが、私を含めそれぞれが大きな決断をしていらっしゃっていると思うので少しでも秋田での暮らしを魅力的に感じてもらえたらと思います。そのためには定住できる環境づくりが大事ですよね。地に足をつけて、目的や目標はある程度固めておいたほうが安心ですし、具体的な相談もしやすいと思います。今は首都圏でも移住のイベントが開催されたり、相談窓口で話を聞いたりできるので、移住後の生活をイメージしやすくなっていると思います。もちろん移住後のサポートも充実しています。

松浦
インターネットが普及した今では、僕みたいに複数拠点で活動することもできますしね。まずは旅行でもいいので秋田を見に来てもらいたいな。

池内
最低でも一泊はしたほうがいいですね。季節の変化がとてもはっきりしているので、風景や生活のスタイル、旬の食べ物の変化をぜひ感じて欲しいですね。地域によっても気候や文化が大きく変わるのも面白いところ。実は私が住んでいる男鹿市には、近年移住者も含めてさまざまな分野でおもしろい活動をしている人たちが集まってきているんです。男鹿という地域はもともと集落ごとの交流があまり無かったのですが、個々の活動によってその垣根がいい意味で取り払われつつあります。私は移住者だからこそできる地域との向き合い方で、もっと秋田を盛り上げたいんです。

松浦
面白い活動をしている人が増えている、という点では秋田県全体の傾向にも当てはまりますね。古民家を活用したカフェやゲストハウスが増えていたり、道の駅や温泉施設が地域の新しい交流拠点になったり。地元の人も「面白いこと」を面白がってくれる人が世代を問わず増えたように感じます。そういう意味では男鹿のナマハゲや秋田犬で秋田県への注目が高まっている今だからこそ、ブームで終わらせたくないという気持ちは大きいですね。ブームが起きたらその次はムーブ。ムーブメントとして継続的に発信していくことがこれからの秋田をもっと面白くできるんじゃないかな。僕ら3人の活動は内容こそ違いますが、地域の課題を解決し、情報を発信し、盛り上げていく、という点で共通していると思います。秋田ならではのビジネスの可能性も広がっているし、新しいビジネスに挑戦する人や企業も増えています。自分の経験やノウハウが思いがけない形で周囲と化学反応を起こし、新たな「面白いこと」が生まれるきっかけになっているんです。今後は新しく人がやってくることをみんなで楽しむことができる、そんな地域づくりを目指していきたいと思います。

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