秋田で感じる。 interview

秋田で感じる。 Special feature

田んぼに張った水が、
夕焼けを映すさまを見たとき。
本当に秋田に来てよかったと思う。

秋田県仙北市で、農家民宿「茅葺(かやぶき)の曲がり家 西の家」を営む東風平(こちひら)蒔人さん。

「宿泊客と地元の人をつなげる体験プランを用意し、一緒に秋田を楽しむ宿にしたい」と意気込む東風平さんに、TURNSプロデューサー堀口が、秋田での暮らしの魅力を聞きました。

世界中に自分が「ホーム」と呼べる場所を作っていきたい、秋田はその初めの一歩

堀口   :最初に、前職を含めたこれまでの経歴をお伺いできますか?

東風平さん:職歴は今もやっている地域おこし協力隊のみで、その前は国際教養大学に4年間通っていました。その前は沖縄の中学校、高校に通っていました。

堀口   :沖縄から秋田に来られたのは、教養大学に入るためということですよね。大学に入ったその当時は、卒業後も秋田に残ろうとは…

東風平さん:全く思っていませんでした。

堀口   :そうですよね。何がきっかけで秋田に残ろうと思われたんですか?

東風平さん:教養大学って、全寮制なので1年目は必ず寮に入るんです。それが2年目からは、学内にいないといけないというルールが取り払われて、でも8割くらいは学内の学生寮を利用するんですが。

私は友人5人と学内から出てシェアハウスしようということになって。大家さんに直談判し、大学に近い雄和地域の古民家で暮らし始めたんです。そんな私たちのことを、地域の人たちは最初は訝しがっていたんですが、だんだん仲間に引き入れてくれるようになって。

地域の草刈りとか、お祭りとか、あとは行事がないときでもご飯に誘ってくれたり、野菜の差し入れをくださったりというような感じで。それがきっかけで、もう少し秋田を探求してみたいな、と思ったんですよね。そこから協力隊という仕事に行きついて、今に至るという感じです。

堀口   :今、地域おこし協力隊としてはどんな活動をされているんですか?

東風平さん:グリーンツーリズムの推進です。
仙北市って乳頭温泉、田沢湖、角館といった東北の中でも有数の観光名所がありますが、例えばそれ以外の一般の農家さんとか、あるいは神社仏閣とか、日の目を見ることがない、だけどそこには魅力的な人がいて、景色があって、出来事がある、というような部分。それを切り取って広めていく活動ですね。

田舎の、観光地以外の部分の魅力を知ってもらいたい。そっちのほうがリアルな秋田なんだよって伝える活動をしています。

具体的には、教育旅行といって子どもたちが農業体験に来るときの手伝いをしたり。あと、コロナ禍に入る前は海外からもお客さんがたくさん来ていたので、リアルな秋田を知りたいと農家民宿に泊まられるお客さんのツアーを企画したりもしていました。

堀口   :その活動は、大学で学んだこととは結構繋がっていたんですか?

東風平さん:いえ、全く。本当に一から勉強し直しでしたね。
大学に入った当初は、どちらかというと海外に目が向いていたと思います。

堀口   :それが地域の人、町の人に魅せられてもっともっと探求したいと言うことで協力隊を選ばれて活動されていると。

海外でやりたかったことをコロナ禍で諦めた……ということでなく、やはり秋田のことをもっと深く知りたい、という思いで今の活動を選んだのですね?

東風平さん:そうですね。ただ、私の中では拠点の一つという意識が強いです。秋田に骨を埋めるまでずっといるぞ、というような熱い思いをもっていたわけじゃなくて(笑)。いつでも帰ってこられる場所、っていうのを秋田に作っておきたいなと。

海外も捨てたわけではなくて、海外にもそういう拠点が一個あったらいいな、私の故郷の沖縄にもあればいいな、という感じで、世界中に自分がホームと呼べる場所を作っていきたいなと思っているんです。

その最初の場所として、まず秋田で、自分の持っているもので繋がりを広げていけたらなと。

旅行じゃなく「そこに滞在してそこの人と一緒に生活をする」をもっと気楽にできる文化になれば

堀口   :確かに今の時代ってどこでも仕事ができるし、拠点をいくつか持って、ライフステージに合わせて住む場所を変えるってこともできますよね。

ライフステージに合わせて住む地域を変えたり、働く場所を変えたり。そういった暮らしの選択肢がすごく増えてくるのかなと思ってます。

東風平さん:その通りだと思います。私も今、1歳の娘がいますけど、小さい子の養育には絶対に都会よりも田舎のほうがいいと思ってます。遊び場が豊かなんですよね。人工的な遊び場という意味じゃなくて、自然の遊び場が豊か。

それから、地域に子どもが少ないので、地域の方々が地元の子どもとして気にかけてくれる。子どもを地域の財産としてとてもよく面倒をみてくれるんです。そういうところも含めて、田舎で幼少期を過ごして感性を育んでいくのはとてもいいことだなと思います。

実は私も小学1年生から中学2年生まで海外で育ったんですが、その経験が、国際教養大学に行ってそのまま秋田にいる、ということに何かしら繋がっていると思っていて。

もし子どもが望むのであれば、そのタイミングで海外に拠点を移して海外で育てる、みたいなことがあってもいいと思うんですよね。そんなふうにライフステージに合わせて拠点を変えていって、それがホームと呼べたらなおいいなと。

旅行じゃなくて、そこに滞在してそこの人と一緒に生活をする、ということをもっと気楽にできる文化、というか社会になっていったらいいなと思いますね。

堀口   :お子さんがいると、町全体で子どもたちを見てくれるなどの安心感ってやっぱり大きいですよね?

東風平さん:そうですね。仮に私たち夫婦が仕事で手一杯になったり病気したりして、子どもをみる人がいませんってなっても、安心して預けられる家庭はいくつもあって。そういう意味でのセーフティーネットはあります。

たしかに、小児科が常駐していないとか産婦人科が常駐していないとかっていう、ホームページでみれば心配になる情報もあるんですけど、それ以外の、データには現れないセーフティーネットはすごくあるんじゃないかな。

堀口   :なるほど、地域の人に頼るっていうことも大事なことなのかもしれないですね。

東風平さん:そういう意味では、雪かきとかはすごく助かりました。普通にトラクターを出してくれたり、除雪機で除雪してくれたり。
草伸びたな、そろそろ刈らないとな、でも仕事あるし……って思いながら出掛けて、帰ってきたら草がなくなっていたりとか。

でもそれが当たり前と思わず、なにか私が提供できるものがあったら提供するみたいな、そういう共助の考えをもっておくことは大事ですね。

そう思いながら、まだ私はあんまりギブができてないんですけど。でも、なにかしらここに貢献ができたらなと思います。

夏空も、雪景色も。一年の中に四季がはっきりとあるところがいい

堀口   :ここの自然の魅力って、どんなところだと思います?

東風平さん:ありきたりですけど、一年の中に四季がはっきりとあるっていうところは、沖縄と比べたらいいですよね。全然違う。

全国どこでも紅葉はあるし雪はあるんでしょうけど、雪の季節が二、三ヶ月まとまってあったり、紅葉の季節も、桜の季節も、夏の季節もまとまってしっかりあるっていうのは東北くらいだと思うので。

東北の中でも太平洋側は雪が降らないし、秋田はそういったところが魅力だと思います。

堀口   :日本には四季があるって言いますが、雪がしっかり降ってくれるっていうところも含めて春夏秋冬を感じられるっていう場所は少ないかもしれないですね。

おすすめのスポットはありますか?場所でもいいですし、この日のこのシーンというのでも。

東風平さん:特定の場所じゃなくて景色なんですけど。例えば自宅の隣でもいいんですけど、田んぼに水が張っていて、それが夕焼けを映すとき。田んぼにくっきり、そのまま山の影が映っていて、夕焼けが山に落ちているのが田んぼにも映っているという景色。本当に何回みても「ああ、すごいな」と思います。

あとは、雪が降ったあとの、朝の晴れているときの澄んだ空気の感じとか。五感全部で感じ取るので、言葉では伝わりづらいんですけど。朝からすごくテンションあがる景色に出会ったとき、本当に秋田に来てよかったなと思います。

堀口   :なるほど、とても素敵ですね。ありがとうございます。
ここはゲストハウスですよね。事業承継されたということですけど、もともとはどういう出会いだったんですか?

東風平さん:もともとはグリーンツーリズムの推進をしていた際に関わりのあった宿で、私がここに赴任した当初からここの大家さんとはお付き合いがありました。

堀口   :どういうきっかけで継ぎたいということになったんですか?

東風平さん:コロナですね。コロナ禍でここが休業したんですが、ここのオーナーさんも、体調、年齢を考えるといずれなんとかしないといけない、というのがちょうどコロナ禍と重なって。

今後どうしよう、これまでなんとなくぼんやりと考えていた休業をいよいよ本格的に、という時期に差し掛かったと思うんです。そこで、この茅葺っていう建物がやはり貴重だし、残したいと思って手を挙げて、やらせてくださいと言いました。

堀口   :協力隊の仕事を推進しながら、オーナーさんの信用も得ていたということですね。

東風平さん:そうですね、それはあったと思います。

堀口   :いわゆる継業ですよね。第三者が移住して、事業を継いで行く「継業」というのがありますけど、お互いにとってハッピーな形になったご縁ですよね。

東風平さん:そうですね。本当に、この流れが増えたらと思います。先日ニュースで「秋田は社長の平均年齢が全国一高い」という報道があったんですが、後継者不足は、農家民宿に限らず全ての産業でその問題に直面していると思うんです。

自分の子どもに引き継ぐ以外の選択肢として、第三者にその大切な事業を譲るっていう選択をとる事業体が増えればいいなと。若者としても借金をせずに事業をスタートできるっていうのは大きなメリットなので、柔軟な対応が県全体で進むといいなと思っています。すでにハードが整っている状態でスタートできるのもありがたいですね。

堀口   :今はスタートアップの支援やスクールみたいなものも流行っていて、たしかにそれも大事だと思うんですけど。ハード面もそのまま引き継げて、かつ地域の信頼も、お客さんも引き継げて、さらに若い人が今まで培ってきたスキルや知見で、新しい活かし方もできて。そういう継業、第三者の承継っていうのが進むというのはいいことですよね。

最後に、今後これからやっていきたいことや、チャレンジしたいことはありますか?

東風平さん:あくまで私の目的は、ここにきたお客さんが「また秋田に来たい」と思ってくれること。それが大切なので、別に宿という業態に拘っているわけじゃないんです。

宿は続けつつも、もっと日帰りでできるアクティビティを提供したいですね。自然を活用したアクティビティでもいいかもしれない。

あとは、ガイドをやりたい。秋田の日常を切り取って、それを上手に調理してお出しするシェフのようなガイドをやっていきたいなと思っています。